無謀ソロツーリング60-1992年


帰国の日、最後の荷作り。
TADさん宅、なぜか周囲の家が前よりボロくなったような気がする。
スモッグに覆われていると分かった途端、LAの空気が汚いように見える。
いつものHWYを車が通る同じ臭いの街なのに少しずつ違って見えるのが不思議。
知らない時はそのままを見ていたのに色々知るごとに同じ物事が違って思えてくる。
バイクを洗っている時も本当に色々なことを思い出し、ボーッとなった。
魔法が解けたようにLittle Tokyo Motor Cycle Shopに立つ。
あの旅は夢だったのではないかと疑うくらいひと月半があっという間に終わった。
あんなに毎日必死で走り、見て、感じて、考えたことがかつてあっただろうか?
限りある旅だからこそたくさんのことを知ろうと全開で過ごした日々。
毎日見るもの全てに興味を持ち、あれはなぜあの形、色になったか?元は海だった?地球はこうだったのか?宇宙から見たらどうなっているのか?とか考えた。
そして夜の星の美しさ。星の数が多いと知ったのは北海道へ向かう船の上、あの時は降って来そうな星が怖かった。
今回は星座を作った人の目がわかるようだった。
物事を地球サイズで考えたりできる大陸はスゴイ。
現実逃避のこの旅の終わる日はまた現実が待っている。
暑い岩とサボテンのバハ、スモッグとビルと銃声のLA、美しい山、湖、森のカナダ、蚊と熊と雨のアラスカ、灼熱のデザートアリゾナ、何とも素晴らしいこの大陸の一部となって生きてみたい。
私が私であることに変わりなく、時間がゆっくり流れていただけ。
両手の甲の異常な日焼けだけがこの旅が夢でなかったことを物語っていた。完