10年前、半年ほどフォーシーズンズホテル丸の内でお仕事をさせていただいたことがありました。
ある時、ホテルの入っている建物一階のカフェで友人と待ち合わせをしていたら、隣席になったホテルのお客様とお話しさせていただく機会がありました。上品でありながらカッコよくて素敵なこの女性が「ホテル西洋銀座地下の吉兆がおススメよ。勉強になるからぜひお食事なさって」とおっしゃるのです。「私にはまだ早い」と言うと「若い方も来てる」、「高い」と言うと「ランチなら一万円でお釣りがくる」、「服がない」と言うと「ジーンズで良い」と引きません。「ハイ、直通電話番号言うわよ。登録して」
結局、その場で私の携帯に吉兆さんの電話番号を登録させて女性は去って行きました。
入れ違いにやってきた友人は大笑い。「何?また、知らない人と話してたの?」
グズグズして一年後、この友人とやっと吉兆に行きました。器、お料理、仲居さん、雰囲気もとても素敵で大好きになりました。一万円のランチですから滅多に行くことができないながらも、友人は母上と、私は主人や大切な友人と再度行ったのです。
またいつか、と思ううちに月日は流れ、一昨年の秋に伺った際にこの吉兆は三月(昨年)で閉店すると知りました。
私は決して良いお客ではなかったのですが正直、寂しくなりました。
何かあったら吉兆へ行こう、ここ一番でご馳走するなら吉兆に連れて行ってあげたい、というとっておきの場所が今はなくなりました。でもまたきっと見つかるだろうから、楽しみにして今は一所懸命仕事しようと思います。