あんのんの入っている建物の階段を掃除しているとよく思い出すことがあります。
新橋で仕事をしていたころ、派遣で建物の階段、トイレ、湯沸し場などのお掃除に来て下さっている年配女性がいました。
私の勤務していた八年の間にはこのお掃除の方が何人も変わりましたが、本当に色々な方がいらっしゃいました。
そのなかでも最初にお会いした方は膝が悪くてとてもつらそうでした。
それなのにビルの1階から9階まで階段の掃除をするのですから大変です。時々階段に腰かけてお休みされているので、ご挨拶がてらお話したりしましたが愚痴のひとつもない優しそうな方でした。
二人目の方も穏やかで奥ゆかしい雰囲気の方でした。いつもご挨拶を交わすくらいでしたが、ある時珍しく話しかけてこられました。「私、今月でこちらを辞めることになりました。私のような者にいつもお声をかけていただきありがとうございました」
私はわざわざご挨拶してくださるお気持ちは嬉しかったのですが、へりくだる言葉にビックリして涙が出てしまいました。
掃除をする仕事をどう思っているか、はその人によって違うかもしれませんが、私はきれいにして頂いてありがたいと思っています。
代わりが見つからないとかで女性が来ない日々はみるみるトイレが汚くなり、自分たちで掃除しなくてはならなかったからです。
そのあと担当になった方は「ここはエアコンが効いてないからイヤ。他のビルは同じギャラでエアコンが効いててとってもラク」とか色々なお話を聞かせていただき、ああそうだったのかと初めて労働事情を知って納得しました。
それにしても文句ひとつ言わずに黙々と掃除してくださっていた方々はすごかったなあ、と思い出します。
この猛暑、そして激寒の季節の階段掃除をしているときはとくに、です。