ある飲食店でアルバイトをしたことがあります。
制服が着物でしたが当時私は自分で着付けができず、先輩に着せてもらいました。
三日で覚えて下さい、と良い意味でプレッシャーをかけて下さったので、下手ながらも早めに着ることができるようになりました。
ただやはり最初の頃は時間が経つと襟元や帯がゆがんでくるので、裏で着付けの手直しをしていただいていました。
やがて着付けも仕事も慣れてきたのですが、同僚の年配女性二人(洗い場さんと着付けしてくれた先輩)は仲良くしていただけませんでした。
今思えば、若かった私が何らかの配慮に欠けていたのだろうと思うのですが、当時は「なぜか嫌われているなあ」くらいの認識でした。
賄いの後片付けも私の器だけ洗ってもらえないし、リンゴを持って行っても「私たちに食べてもらいたかったら自分で剥きなさいよ!」と言われたり。しかしこのころ貯金するため忙しかった私は、幸いにもあまり気にすることなく朝10時から夜11時まで休日もなく働いていました。また昼休憩の2時間はオートバイの雑誌に原稿を書いてはファックスして必死でした。
そうして一年ほどが過ぎた時、着付けをしてくれた先輩が会社を辞めるという話を聞きました。さんざんお世話になった方でしたので、最終日にお店で感謝の言葉と花束をお渡ししたら号泣されてしまいビックリ。後日、お寿司に連れて行って下さり「あんなにいじめてたのにお花まで下さるなんて今まで申し訳なかった」と謝罪されてさらにびっくり。
若いというだけで板前さんが私をちやほやしたり、たくさんシフトに入って常連さんに覚えられていることが気に入らなかったのだ、というお話も聞いて色々納得し、最後はお互い泣きながら別れを惜しんだのでした。
残った洗い場さんも徐々に優しくなり手作りの焼売を下さったり、よくおしゃべりするようになりました。もちろん私の器も洗って下さるようにも。
今でも思い出すと甘酸っぱい懐かしい気持ちになります。
これにより、自分が年をとっても若い方を決していじめないように気をつけよう、と深く心に刻んだのでした。